実家を売却するタイミングについて 相続前、相続後どちらがお得?
親が持ち家に住んでいると、子は将来その家を相続することになりますが、子どもが自分の家を持っている場合は実家を手放すことが一般的だと思います。そこで実家を手放すタイミングは、相続前、相続後のどちらがお得なのかについて考えてみました。
税金面
税制面では相続したときにかかる「相続税」、売却したときにかかる「所得税」があります。
相続税は、相続が発生して財産を貰った人に対し、家や預金、保険などすべての相続財産を合計したものに課税されます。相続税には 3,000万 +(600万×相続人数)の「基礎控除」があり、この金額内なら相続税は課税されません。また「小規模宅地等の特例」により、亡くなった人が自宅として使っていた土地を配偶者又は亡くなった人と同居していた親族が相続した場合、土地の評価額を8割控除することができます。
一方、実家を売却して利益が出たとき、この利益は所得としてみなされ譲渡所得(所得税、復興特別所得税、住民税)が課せられます。譲渡所得は給与所得など他の所得と分けて計算される「分離課税」で、所有期間によって税率が変わります。
所有期間が5年以下の場合 :短期譲渡所得として所得税と住民税合わせて約40%
所有期間が5年を超える場合:長期譲渡所得として所得税と住民税合わせて約20%
ただし譲渡所得にかかる所得税にも控除があり、居住用財産を売った場合には、所有期間に関係なく3,000万円の特別控除が使えます。
実家を売却してから相続する場合
親が生きている間に実家を売って利益が出た場合には、その利益に対して所得税がかかります。
親が自分で家を売却しているので、通常の売却と考え方は同じです。2,000万円で買った家が5,000万円で売れ、3,000万円の利益がでた場合、一般的に利益の20%である600万円の税金がかかりますが、居住用財産の特別控除により税金は0円となります。売却してから相続するので、現金化された資産に対して相続税がかかります。
先程の例でいうと、家を売って現金化された5,000万円に対して相続税がかかることになり、子供が1人で相続する場合、基礎控除額3,600万円を差し引かれ、課税対象額は1,400万となります。
相続財産3,000万円以下の相続税率は15%、規定の控除額50万円を差し引くと、
課税対象(1,400万)× 税率(15%)- 控除額(50万)= 相続税(160万)
売却してから相続した場合は、所得税0+相続税160万、税金の合計額は160万円となります。
相続後に実家を売却した場合
実家を不動産のまま相続する場合は、不動産の評価額に対して相続税がかかります。
先程の例でいうと、実勢価格が5,000万円だとすると評価額は4,000万円ぐらいであり、この4,000万円に対して相続税がかかります。現金よりも不動産のまま相続した方が相続財産を安く計算してもらえ、子供が1人で相続する場合、不動産評価額が4,000万円なら相続税の基礎控除分である3,600万円を引いた400万円に税金がかかります。相続財産1,000万円以下の税率は10%なので、
課税対象(400万)×税率(10%)=相続税(40万円)
続いて相続した実家を売却し5,000万円で売れたとすると、いくらの利益が発生するかを計算します。
・親が購入した金額を引き継ぐ
・支払った相続税も取得費に加算できる
ここでは2,040万円で買った家として計算します。
売却価格(5,000万)― 取得費(2,040万)= 利益(2,960万)
この利益に対して約20%の税金がかかるので、所得税は590万円となります。相続人が住んでいない親の家を売っているので、居住用財産の3,000万円特別控除は使えません。
相続してから家を売った場合は、相続税(40万)+ 所得税(590万)= 税金の合計(630万)となります。
相続する前に売却した場合の税金は160万円、相続した後で売却した場合の税金は630万円、同じことをしているのにタイミングによってかかる税金が大幅に変わることが分かりました。但しここでの前提は、「相続財産は家のみ」、「相続人は1人で持ち家がある」、「実家は使用しないので5,000万円で売却する」、と仮に設定した条件下の話です。状況によって異なるので「相続する前に売却した方がお得」とは一概には判断できるわけではありません。
例えば子供が親と同居していて相続後も住み続けている場合は、3,000万円の特別控除が使えるので、相続前でも相続後でもどちらで売却しても税金はあまり変わりません。生前に実家を売却するなら親の住まいはどうするか、他の税金の特例は受けられるのか(空家の3,000万円特例)、など両者を正しく比較して結論を出すのは難しく、相続人が複数いる場合はさらに複雑になります。具体的な話になった場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。